協力と裏切りの定義withハイパーインフレーション
ハイパーインフレーションのネタバレが多く含まれます。というか後半は読んでない方はわからないかもしれない。まだ読んでない方は2/17まで無料で全話読めるので読んできてください。常に読者の予想の上を行く知的な頭脳バトル漫画です。汚いドクターストーン、ワールドトリガー、ゴールデンカムイ、デスノートとか言われてる
[1話]ハイパーインフレーション - 住吉九 | 少年ジャンプ+
今日はね、ハイパーインフレーションを読んで協力した上で思いっきり裏切るゲーム作りたい欲が再燃したので協力と裏切りの定義について考えていくよ。
協力の定義とその発生条件
ゲーム理論において、協力ゲームと非協力ゲームを分けるのは拘束力のある合意が可能であるか否か、とされている。
拘束力のある合意の下で、互いにメリットのある行動をするのが「協力」と言えそう。
脅されて協力しなければ死ぬ場合、「やらなければ死ぬ」というのは拘束力になる。
死ぬというのは損だからである。
人はもっとも効率のいい行動をすると仮定すると、 「目標はもちろん、協力がその達成に最もいい手段である必要性」も拘束力といえる。
拘束力というのは「合意から外れることをすると効率が悪くなる」性質と言えそう。
裏切り
他人の期待や自分の予想などに反すること
双方が「拘束力のある合意」が得られたとする。 すると片方はもう片方が合意通りの行動をすることを「期待」したり「予想」したりする。 信頼(信じて頼りにする)すると言ってもいい。 それに反するということは、協力したうえで裏切りは合意から外れた行動をすること。といえるかもしれない。
しかし、合意から外れた行動をしてもそれが両方の利益になるなら裏切りとは言わないかもしれない。 信頼を「互いに利益になる行動をすると信じて頼む」と解釈すれば、合意には反するけど信頼には反さないなら裏切りにはならないかもしれない。
で、協力した上で裏切るためには「拘束力」を無効化する必要がある。 拘束力というのは「合意から外れることをすると効率が悪くなる」性質だから、 どちらにせよその行動のほうが効率が良くなる必要がある。 拘束力がより金が稼げることや信用を失わないことなら、それを捨てられうる状況なら裏切れる。 初めから裏切る算段をするなら、その状況を隠して協力するふりをするとか。
ここからは「ハイパーインフレーション(漫画)」の序盤の船の入れ替えがなどを例に出そう。
チキンゲーム(6話)
このチキンゲームは「損壊をやめる」という「拘束力のある合意」を取るためのゲームである。
互いが互いの目標物を少しづつ損壊するという脅しを行う。
もし片方が損壊を行わなかった場合、もう片方が全力で損壊をすることで損壊能力を失わせ、自分だけが得をし、損壊を行わなかったものは損しかしない。
もし両方が損壊を続けた場合、両方が損をしてしまう。
両方得をしたい場合、互いに「損をするほど損壊されてしまう」という認識をもてば、両方が「損壊をやめる」という「拘束力のある合意」が行える。合意を破って損壊を行った場合、「損をするほど損壊されてしまう」からである。片方、もしくは両方が「損をするほど損壊されてしまう」と認識しなかった場合、「損をするほど損壊されてしまう」という損、罰がないため、「拘束力のある合意」が行えない。
「損壊をやめる」という協力は膠着状態にあり、互いの得のためには、この後この後商談で互いの利害をすり合わせ解決案を提示しなければならない(?)
ちなみに、この時点でレジェットがルークに協力しているのは「生き残って」「秘密の任務の達成のために力の情報やルークを帝国に持ち帰る」ため
奴隷狩りと協力するためには政府の人間と明かさねばならず、そうすると口封じに殺される、秘密の任務がバレるので行えなかった(4話参照)。
船で帝国に向かうという目的の一致の上、レジェットはルークを帝国に持ち帰りたかった。
やむを得ず、必然的にレジェットはルークと協力して帝国に向かっている。
ルークはハル姉を取り戻すため帝国に行かねばならない。船に乗り込んだ時点でルークはレジェットを信用しているので協力して帝国に向かっている(?)
互いの目標が「帝国に向かうこと」で一致しているので、合意を破るとその目標が果たせなくなる。目的は違うのでその後は敵対の可能性があるが、それまでは「拘束力のある合意」があった
話し合い(6話)
この場合、敵の船で話し合うことに「拘束力のある合意」をしている。 敵の目標は財宝によって金を稼ぐことで、味方の目標は死なずに生き残って逃げることである。 そこで、合意に「死んだ場合、財宝を海に落とす」という罰則の項目を定めることで、合意に背いた場合、互いの目標を達成できない。
よって「拘束力のある合意」にすることができている。
仲間を売れ(7話)
この場合、グレシャムに姉を探すことに対する「拘束力」がないため、「拘束力のある合意」ができず協力できない。もしルークからの信頼がグレシャムの目的に必要だったなら、信頼を失うという損があるため「拘束力のある合意」がとれ、協力できたかもしれない。
入れ替え案(9話)
前提
奴隷船にはガブール人31人、船そのもの(速度が遅い)(高価)と財宝、ボート1艇、ダウーがある。(銃はフラペコが捨てた(6話)) 私掠船には海賊27人、銃、弾、船そのもの(速度が速い)(安価)、ボート1艇、ルークがある(私掠船のほうが奴隷船より速いので、入れ替えないと逃げられない。)
海上保険は奴隷船やその積荷、つまりガブール人に損害を受けた場合に補填してもらえる。
よってグレシャムは「ガブール人」をどれだけ失っても保険をかけているので損しないが、
ルークにとってガブール人は手駒同胞、失えば損
ガブール人陣営の勝利条件は「全員が奴隷にならず、死なないこと」なので拘束力のある合意のためにはグレシャムに殺戮させないことが求めらえる。 グレシャム陣営の勝利条件は「金をできるだけ稼ぐこと」なので拘束力のある合意のためには合意なしで行える殺戮案よりも稼げる必要がある。
グレシャムは殺戮案を行うと船内で財宝を損壊され、奴隷船を損壊し、手下を失う(リスクがある)。入れ替え案だと私掠船を失う。
戦闘になった場合、銃と弾の両方を持っている場合、銃を撃てるので勝つ。そうでない場合、頭数が多いほうが勝つ
事前に両方の船の人員の所属陣営はルーク以外統一している(あらかじめ話し合い担当とフラペコの仲間の交換を行っている)
銃と弾のほかの武器は捨てている。
互いの船に到着したり出発したりするときは身体検査を行うので記述していないものは運べない
1回目の入れ替え
私掠船から奴隷船には「銃」、「海賊6人」 奴隷船から私掠船には「ガブール人5人」を輸送する。
すると奴隷船にはガブール人25人、海賊6人、銃、船そのもの(速度が遅い)(高価)と財宝、ボート1艇、ダウーがあり、ガブール人陣営に数の利がある 私掠船には海賊21人、ガブール人5人、弾、船そのもの(速度が速い)(安価)、ボート1艇、ルークがあり、グレシャム商会陣営に数の利がある
片方が攻撃した場合もう一つの船で仲間が攻撃されるので互いに攻撃できず、「拘束力のある合意」がとれている
二回目の入れ替え
私掠船から奴隷船には「弾」、「海賊6人」 奴隷船から私掠船には「ガブール人15人」を輸送する。
すると奴隷船にはガブール人12人、海賊10人、銃、弾、船そのもの(速度が遅い)(高価)と財宝、ボート1艇、ダウーがあり、グレシャム陣営に数の利がある上、銃と弾がそろっているので撃てる 私掠船には海賊15人、ガブール人20人、船そのもの(速度が速い)(安価)、ボート1艇、ルークがあり、ガブール人陣営に数の利がある
三回目の入れ替え
入れ替え完了
私掠船から奴隷船には「海賊15人」 奴隷船から私掠船には「ガブール人11人」とルークを輸送する。
すると奴隷船には海賊27人、銃、弾、船そのもの(速度が遅い)(高価)と財宝、ボート1艇、ダウーがある 私掠船にはガブール人31人、船そのもの(速度が速い)(安価)、ボート1艇、ルークがある
裏切り(9,10話)
グレシャムは逃げることを不可能にすることで入れ替え案のルークのメリットを消して自分のメリットとした。「拘束力のある合意」に見せかけて、ガブール人が逃げられないようにさえすればすべてを手に入れられた。つまり入れ替え後の拘束力がなかった。
レジェットはその裏切りを読んだうえでルークに伝えず、ルークに危害を加えさせないままグレシャムを倒すことで船を支配した。これはルークの損になる行動で、協力すると(なぜか無条件で?)信頼していたのを裏切った。
この協力はグレシャムが武力を持っていない状況でのみ「拘束力のある合意」となった。武力があるなら、ルークを拘束したほうが儲かるからである。
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